隠岐島前教育魅力化プロジェクト ホーム

【イベントレポート】3/11(土)開催「みんなで考える公教育の未来」を開催しました!

2023年3月11日(土)、トークイベント「みんなで考える公教育の未来 〜高校普通科改革の先陣を切る、隠岐島前高校の挑戦事例より〜」を、東京・永田町にて開催しました。

当日は、教育関係者、隠岐島前高校の卒業生、生徒の保護者、入学を検討中の親子をはじめ、30名ほどの方々にお越しいただきました。イベントの様子をレポートでお届けします。

登壇者

特別ゲスト:文部科学省 初等中等教育局 参事官(高等学校担当)付 高校教育改革係 長屋美咲さん

スピーカー:

・隠岐島前教育プロジェクトリーダー・隠岐島前高校コーディネーター 宮野準也

・隠岐島前高校教諭 三島健士朗

・隠岐國学習センター教務スタッフ塚越優

モデレーター:笹原風花(フリーランスライター)

 

会場の様子

「新しい普通科」とは(文部科学省 長屋美咲さん)

まずは文部科学省 初等中等教育局で高校教育改革を担当する長屋さんが、「『普通教育を主とする学科』の弾力化について」と題して、いわゆる“新しい普通科”について解説しました。

  • 国の制度改革の背景

長屋:普通科には高校生の約7割が在籍するものの、生徒の能力・適性や興味・関心を踏まえた学びの実現に課題があること、また、「普通」という名称から、一斉的・画一的な学びの印象をもたれやすいことが指摘されてきました。そこで、普通科においても生徒や地域の実情に応じた特色・魅力ある教育を実現しようということで、制度改革を行うことになりました。

 

  • 制度改正により普通科はどのように変わるのか

長屋:従来は「普通教育を主とする学科」には「普通科」しかありませんでした。これに「学際領域学科」「地域社会学科」「その他の普通科」の3つの学科、いわゆる“新しい普通科”が加わります。“新しい普通科”は令和4年度より設置が可能になり、初年度には全国で6校が設置しています。隠岐島前高校は6校のうちの一つで、新たにできる地域共創科は「地域社会学科」にあたります。

  • 学際領域学科:SDGsの実現やSociety5.0の到来に伴う諸問題に対応するために、学際的・複合的な学問分野や新たな学問領域に即した最先端の特色・魅力ある学びに重点的に取り組む学科。                                   
  • 地域社会学科:高等学校が立地する地元自治体を中心とする地域社会が抱える諸問題に対応し、地域や社会の将来を担う人材の育成を図るために、地域社会の魅力や課題に着目した実践的な特色・魅力ある学びに重点的に取り組む学科。
  • その他の普通科:当該高等学校のスクール・ミッションに基づく特色・魅力ある学びに重点的に取り組む学科。

従来の普通科との違いについて、長屋さんはこう解説を続けます。

長屋:カリキュラム上は、各学科の特色に応じた学校設定教科・科目を設け、2単位以上を必履修とすることが条件です。そのうえで、学校設定教科・科目と総合的な探究の時間を軸として、生徒が社会の持続的発展に寄与するために必要な資質・能力を身につけられるよう、多様な分野の学びに接することが求められます。また、大学、企業、地域の行政機関など外部機関との連携協力体制の整備や、そうした関係機関との連携を推進する職員、いわゆるコーディネーターの配置にも努めることになっています。

コーディネーターを取り巻く体制図

 

さらに、コーディネーターは大きく「サポーター」「プレーヤー」「マネージャー」の3つに分類され、特にプレーヤー、マネージャークラスにはカリキュラム開発に関する高い専門性と、地域内外との継続的な連携が求められる、という説明がありました。

 

コーディネーターの役割

制度改革に伴い新たに始まったのが、「新時代に対応した高等学校改革推進事業」の「普通科改革支援事業」です。“新しい普通科”の設置を予定している学校の取り組みを推進することを目的にしています。

長屋:普通科改革支援事業の指定校は、“新しい普通科”の3年以内の設置を目指します。指定校は令和4年度は20校、令和5年度はさらに15校増えて35校になる予定です。それぞれ教育課程の特色を打ち出しており、隠岐島前高校の場合は、「離島発『グローカル人材』育成のための『教科・探究学習が有機的に融合したカリキュラム』となっています。

 

  • 質疑応答

―コーディネーターの配置の重要性を感じていますが、実態としては探すのが困難です。普通科改革支援事業に応募するには、すでにコーディネーター人材が配置されていないといけないのでしょうか?(都立高校教員の方より)

長屋:指定校には、3年目までに“新しい普通科”を設置できるよう、必要な調整をしていただきます。手を挙げる段階ではコーディネーターが配置されていなくても構いません。どういった人材をコーディネーターにするのかは、それぞれの学校や地域のニーズに合わせて進めていただければと考えています。また、「新時代に対応した高等学校改革推進事業」では、「高校コーディネーター全国プラットフォームの構築事業」も行っており、コーディネーターの育成やコーディネーター間の交流の場づくりも同時並行で進めています。

 

―小中学校や大学との接続などを含めたグランドデザインについては、どう描いているのでしょうか?(国立大学の教員の方より)

長屋:向こう5年間の基本計画を文部科学省内で検討中です。また、令和4年度中に、全国のすべての高校がスクール・ミッション、スクール・ポリシーを設定することになっています。スクール・ポリシーにはアドミッション・ポリシー、カリキュラム・ポリシー、グラデュエーション・ポリシーの3つがあり、自校ではどのような生徒を求めているか、どのようなカリキュラムに基づいて教育を実践しているか、卒業時にどのような人材になっているか、を定めています。小中学校や大学との接続という点においては、これらを参考にしていただければと思います。

 

隠岐島前高校の挑戦(プロジェクトリーダー 宮野準也)

続いて、プロジェクトリーダーであり島前高校コーディネーターの宮野が「隠岐島前高校の挑戦事例(これまでとこれから)〜」と題して、隠岐島前高校の取り組みを紹介しました。

  • 隠岐島前教育魅力化プロジェクトが始まった背景と経緯

宮野:地域に唯一の高校である隠岐島前高校が、生徒数減により廃校の危機を迎えたのが発端です。地域に高校がなくなると、高校進学のタイミングで家族ごと移住してしまうケースも想定され、このままだと地域の存続も危うくなる。そんな危機感から、「魅力的で持続可能な学校と地域をつくる(=魅力化)」をコンセプトに、地域と学校が一緒になって取り組み始めたのが隠岐島前教育魅力化プロジェクトです。

先生が赴任したい学校、生徒が行きたい学校、保護者が行かせたい学校、地域が活かしたい学校にしようと、地域と協力して、当時は珍しかった生徒の全国募集、地域課題解決型の探究学習、公立塾・隠岐國学習センターの運営など、さまざまな取り組みをしてきました。その結果、生徒数が増えて廃校の危機を脱することができ、その後も継続的により良い学びの環境づくりに挑戦してきました。

いろんな大人が関わっているのが魅力化の特徴で、僕のような高校コーディネーター、寮のハウスマスター、学習センターのスタッフ、外部の学校経営補佐官、役場の人、インターン生など、多様な人が日常的に生徒とかかわっています。

 

多彩な魅力化スタッフ

 

 

  • 育成目標「グローカル人財」とは

宮野:グローカル人財とは、グローバルとローカルの両方の視点や価値観を大事にする人財のことです。グローバルとローカルのどちらが良い悪いではなく、両方を行き来しながら考え、行動できる人を育てたいと考えています。

グローカルとローカルを行き来する人財を育てる

 

グローカル人財の育成には、学校の中だけで学ぶのではなく、地域というフィールドを使って学ぶ、地域の人やものをリソースとして学ぶことが不可欠です。こうした学びを生み出すために、島前高校では先生とコーディネーターがチームになって授業をつくっています。例えば、今年の3年生の地域探究学習では、島の医療機関とセッションしてホスピタルアートを行ったチームがありました。また、京都から島前に流された後鳥羽上皇が感じたであろうストレスを題材に、「古典×保健体育」のコラボ授業を行うなど、さまざまなテーマで教科横断型の授業を実践しています。

 

教科横断のコラボ授業例

 

  • 「失敗を共に称え合う学校」を目指して

さらに、校長やコーディネーター、地域内外の学校経営補佐官らによって毎月開かれる「学校経営会議」について言及。「失敗を共に称え合う学校」の年間学校経営スローガンのもと行った取り組みについて紹介しました。

宮野:失敗を恐れずに挑戦しようと、今年は「失敗を共に称え合う学校」をスローガンに掲げました。チャレンジも大事だけど、それを振り返って深めていく「振り返り」と「踏み込み」のサイクルを回すことが大事だよね、というのがベースにあります。

 

失敗と踏み込みのサイクル

 

例えば、10月13日はフィンランドでは「失敗の日」とされているそうで、それを学校行事として行いました。自らの失敗体験を語り、お互いの失敗を称え合ったうえで自らを振り返り、踏み込みカードを書く…という「未来への踏み込みワーク」に生徒も先生も一緒になって取り組みました。また、リフレクションの専門家である熊平美香さんをお呼びして、お話をしていただく機会なども設けました。

 

「失敗の日」に行った”未来への踏み込みワークショップ”

 

  • 「地域共創科」の挑戦

世の中が急速に変化し、予測できない時代になっていること、いわゆる学力だけでなく総合力が求められるようになっていること、その総合力は大学入試でも問われるようになっていることに言及。隠岐島前高校では総合力を育成する探究学習に力を入れてきたものの、カリキュラム上では全体の数%にすぎず、授業外の活動で補ってきたという背景を説明しました。

 

宮野:普通科の制度改革によりカリキュラムが弾力的になったことで、新しく設置した「地域共創科」では、探究にあてられる授業時間数が全体の22%にまで増えました。具体的には、学校設定科目や総合的な探究の時間を木曜日に集め、丸一日探究に取り組める「地域共創DAY」を設定します。これまでは探究の時間が週1〜2時間しかなかったため、地域の人の話を聞いて対話をする…というところで終わってしまいがちでした。それが、丸一日探究に使えると、例えば地域の畜産農家さんのところに実際に足を運んで作業を体験する、実体験を通して後継者不足の問題を実感するなど、どっぷり浸かることができます。

 

1年次は全員が普通科で学び、2年次に普通科と地域共創科に分かれます。普通科でも引き続き探究学習に力を入れますが、地域探究学習をもとに学びを深める地域共創科に対し、「教科の学びを探究に活かす」という位置付けになります。どちらも、「グローカル人財」という目指すところは同じです。

普通科と地域共創科の道筋

 

宮野:目標は、一人ひとりの想いを起点にグローカルに地域を共創し、地域に変化が起こるレベルの成果を出すことです。高校生が「学び手」から地域の「担い手」の一人になる、そんな未来を実現していきたいと考えています。自分たちの課題感もあって、今回、“新しい普通科”に名乗りを挙げたわけですが、そもそも普通科の「普通」とは何なのか、それはこれからの社会に合っているのか、これまでの「普通」や「当たり前」を問い直してこれからのスタンダードに挑戦していくことが「普通科改革」なのではないか、そんなふうに感じています。

トークセッション

宮野の発表後は、そのままトークセッションへ移行。隠岐島前高校の三島先生、学習センターの塚越も加わり、会場や司会からの問いをもとに深めていきました。

 

―島外出身の生徒は、どういったビジョンをもって入学しているのでしょうか?(都内在住の方)

宮野:会場に卒業生が来ているので、答えてもらいましょう。

卒業生:入学前からやりたいことが明確な生徒はゼロに近いんじゃないかと思いますが、変わったことをしたい、島に行ってみたいという意欲やパワーのある子が集まっている印象ですね。島に来て、漁業とか料理とか、やりたいことを見つけた人は周りにもたくさんいて、そういう環境が整っているなと思います。私自身は、自然の中で暮らしたいな、というのが島前高校に惹かれた最初の理由でした。自分のやりたいことや方向性を見つけるうえで大きかったのは、やっぱり人との出会いです。コーディネーター、学習センターのスタッフ、地域の人など、初めて親以外のいろんな大人と話すなかで、こんなことやっている人がいるんだ、こんな素敵な人がいるんだと刺激を受け、少しずつ見えてきた感じです。

 

―学習センターについて教えていただけますか?(司会)

塚越:学習センターは高校生だけでなく、いろんな人がふらりとやってくる場所です。島では夜7時以降に開いているのは学習センターかスナックかなので、“夜のお仕事”なんて呼んでいますが(笑)、島外から来た人が仕事をしていたりもするんです。そこで高校生と話が弾むこともあれば、その人がやっていることに興味がありそうな高校生とつなぐこともあります。

日々様々な出会いが生まれる、学習センター

 

―三島先生は2回目の赴任ということですが、どういうところに惹かれて志願されたのですか?(司会)

三島:最初の赴任時は、大学を卒業したばかりでした。生徒も教員もやりたいことに挑戦できる環境で、いろんなことにチャレンジできたので、また挑戦したいなと思ったのが戻ってきた理由の一つです。もう一つは、島に還元したいという思いですね。島の人たちがすごく温かくて、よくしてくれて、島を出るときには大泣きしてしまったほど。当時、自信がもてなかった自分を育ててくれた場所に、少しでも還元できればという思いで志願しました。

今年度チャレンジしたことは、生徒に一人一台端末が導入されたこと、今年の1年生から評価の仕方が変わったことから、デジタル端末で単元テストを行いました。これまでなら、うまくいくという確証がなければやらなかったと思うのですが、まずはやってみよう、やったことを振り返って次につなげてみよう、と思ったんです。思い切って挑戦ができたのは、周囲からの後押しがあったからこそです。

 

―長屋さんは昨年末に隠岐島前高校を視察されたと伺いましたが、どんな印象でしたか?(司会)

長屋:目的をもっている生徒、何かをしたいという意欲のある生徒が多い印象でした。学生寮にも伺ったのですが、寮生たちが生活のルールなどについて自発的に話し合いの場を設けていて、すごいなと思いました。

 

自治に取り組む寮生活

 

―隠岐島前高校の資料を見て、次に中3になる息子が行きたいと言っているのですが、具体的にどのような準備が必要なのでしょうか?(中学生の保護者)

宮野:島前高校の1年生にお子さんが通われている保護者が来ていらっしゃるので、聞いてみましょう。

保護者A:

県外募集をしている高校100校くらいから島前高校ともう1校の2校に絞り込み、両校を実際に訪れてみて決めました。対策としては、娘は林業に興味があったので、関連した本を読んだり、島前高校の卒業生のエッセイを読んだりして、地域に思いを馳せながら生活していました。また、島前高校に行けなかった場合も考えて、勉強もしていました。

保護者B:

親の方から「こんな学校があるよ」と島前高校を紹介したところ興味をもち、本人がオンラインの説明会に参加するようになりました。その場では必ず発言を求められるのですが、自分の発言を大人の人に褒めてもらえたことで、気持ちが前向きになっていったようです。オープンスクールで初めて島を訪れたときに、いろんな人に声をかけてもらえたのがうれしかったと言っていました。入試では面接があるので、いろんな大人の人に面談の練習をしてもらい、自分のことを自分の言葉で話す練習をしていました。

 

グループ対話の様子

 

セッションの後は、登壇者と参加者がいくつかのグループに分かれ、対話をする時間をとりました。「普通科の普通ってなんだろう?」という問いを設定していましたが、その枠にとどまらず、それぞれの抱える課題や問題意識を共有したり、経験談やエピソードが交わされたりと、どのグループも大いに場が温まっていました。

 

 


 

イベント終了後も、登壇者らと名刺交換をされる方、参加者同士でお話をされる方の姿が多く見られました。

土曜日の午後という貴重な時間を割いてご参加くださったみなさん、お忙しいなかお越しいただいた長屋さん、本当にありがとうございました。

令和5年4月より、いよいよ本格的に地域共創科が始動します。島前高校のホームページでは日々の実践をレポートしていきますので、そちらもぜひ追っていただけたら幸いです。今後もご注目ください。

 

また、隠岐島前教育魅力化プロジェクトでは、今後も定期的にこのようなイベントを開催していく予定です。

みなさんのご参加をお待ちしています!

 

(執筆:笹原風花)

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