大事なのは、教員自身が楽しむこと。まずは、やってみること。 〜隠岐島前高校コラボレーション授業実践報告会「秋の探究祭り」レポート(前編)〜
大事なのは、教員自身が楽しむこと。まずは、やってみること。
〜隠岐島前高校コラボレーション授業実践報告会「秋の探究祭り」レポート(前編)〜
隠岐島前高校では今年度、教科の枠を越えたコラボレーション授業に取り組んでいます。11月2日(火)には、その実践事例を題材に学び合うオンラインイベント「秋の探究祭り」を開催。「教科×教科」「教科×地域」「教科×総探(総合的な探究の時間)」の実践事例を紹介しつつ、50名あまりの参加者もいっしょになって語り合う時間となりました。その様子(前編)をレポートします。
【登壇者】
大賀学先生 隠岐島前高校教諭(主幹)
吉岡裕司先生 隠岐島前高校教諭(探究推進担当)
内田勇貴先生 隠岐島前高校教諭(数学)
田中里奈先生 隠岐島前高校教諭(埼玉県より派遣・数学)
「地域連携」「教科横断」が今年度の授業づくりのテーマ
「ワクワクしつつ、いい意味でモヤモヤが残る90分に」という司会の澤さんの言葉でイベントはスタート。隠岐島前高校の紹介に続き、主幹の大賀学先生が挨拶をしました。
大賀:新学習指導要領に沿ったカリキュラムマネジメントということで、今年度は「地域連携」や「教科横断」をテーマに、試行錯誤しながら授業をつくっています。総合的な探究の時間だけでなく、他教科の授業もいかに探究的なものにするか、そのためにはどういうプログラムが有効か、みんなでグランドデザインを考えているのが隠岐島前高校の特長。教員だけでなく、コーディネーター、隠岐國学習センターのスタッフ、外部アドバイザーなど、多様なメンバーが協働して授業をつくり上げる土壌ができています。教員の平均年齢は30代半ばと若く、活力のある学校です。今日は、参加者の皆さんも含めて所属の枠を越えて議論する、良い時間にできればと思っています。
実は、隠岐島前高校に赴任してまだ半年の大賀先生。澤さんに第一印象を尋ねられ、「学校の中と外との壁が薄い。社会に開かれた学校づくりを実践していて、またそれがいい感じに機能していて、驚いた。こんな学校が全県・全国に広がるといいなと思う」と述べました。
続いて澤さんが参加者に投げかけたのが、「どんなことを探究したくて、今日ここに来たのか?」という問い。参加者は次々とチャットに書き込んでいきました。
・地域(社会)と学校の連携をいかに進めるか。
・地域を題材にした教科授業をどのようにつくっていくのか。
・探究の時間や教科の授業、課外活動などの学びをどのように接続していくのか。
・学校一丸で探究を行う雰囲気をどうつくるか。
・教科横断の授業を組み立てるアイデアの生み出し方のヒントが知りたい。
・「探究的な」とはそもそもどういうことで、どんな要素があれば探究的になるのか。
・生徒の「やらされ感」の払拭。
・教員の探究とはどんなもので、研究とは何が違うのか。
……等々。こうした書き込みから、教員をはじめとした皆さんの課題感が浮き上がってきました。
「数学×地域課題」で多角的視点と探究心が芽生える
続いて、実践事例紹介へ。隠岐島前高校の3名の先生が発表を行いました。
最初に、数学の田中里奈先生が「教科(数学)×地域(地域課題)」の授業について発表。田中先生は埼玉県立大宮高校の教員で、埼玉県との協定により、今年度、隠岐島前高校に派遣されています。「最近は教科の枠を越えた取り組みが楽しくて、どんな掛け合わせができるかいつも考えている」と、発表を前に緊張しつつもなんだか楽しそうです。
田中:1次不等式の単元で、「海士町に初めてのカラオケ店を作ろうと計画している」という地域課題をテーマにして、3店舗の料金体系を提示して、どの店を選べば料金が安くすむかを検証・説明する…という問題にしました。同じ数学の内田先生に雑談レベルで相談するなかで、面白そうだからやってみようと、生まれた問題です。
田中:2時間続きの授業で、ジグソー法を用いてグループ活動を行いました。3つの解き方を各メンバーが学んでグループ内で共有し、仮説を立てて検証し、グループごとにまとめます。さらにそれを全体で共有し、意見を出し合います。
田中:授業の最後には、「この問題の結果を踏まえて、海士町にカラオケ店を作るならどのような料金体系がいいか」を考察し、授業の感想を書いてもらいました。感想では、「自分の住む海士町の話だったので問題に入りやすかった」「数学の思考と普段の生活の中での思考を両方使えたら、広い視野で生活できそうだと思った」「数学だけにとどまらず、経営者の立場に立って考えたのは新鮮だった」などの声があり、多角的な視点で物事を捉えられるようになった、地域課題への探究の種が生まれたという実感がありました。
田中:数学に苦手意識のある生徒は少なくありませんが、身近なテーマを題材にすることで取り組みやすくなるのだと、改めて感じました。内田先生といっしょに問題を作っていくなかで新しいアイデアがどんどん出てきて、授業の準備段階から私自身もとても楽しく取り組めました。
考えすぎず、準備もシンプルに…とりあえずやってみる!
続いて、化学の吉岡裕司先生(探究推進担当)が、「教科(化学)×教科(世界史)」の授業について発表しました。
吉岡:今年度は、「カリキュラムマネジメントの視点に立った授業改善」を課題として設定し、教科横断や教科と総探のつながりの強化に取り組んできました。大賀先生とコーディネーター3名と私による「探究チーム」が中心となって、探究学習をいかに推進していくかについて話し合っています。
そうしたなか、吉岡先生が「来週やってみますわ…という軽いノリで始めた」という教科横断型の授業。今回の発表では、そのときの内容を紹介しました。
吉岡:「金属の歴史」というテーマで実施しました。「次の金属(銀・アルミニウム・金・銅・鉄)を、単体が利用できるようになった時期が早い順番に並べ替え、その理由(化学的、歴史的、その他)を考えてみよう」という問いを立て、①個人で仮説を立てる、②グループで検証する、③発表、解説、まとめ、振り返り…という3つのプロセスで授業を構成しました。
吉岡:グループ活動では、仮説をもとに、世界史の資料集や化学の教科書を使いながら検証を進めていきました。青銅器として古代から用いられていたから銅が古いとしたグループもあれば、銅を単体で取り出せるようになったのは後世になってからだと考えたグループもありました。
吉岡:ワークシートにまとめる段階では、イオンになりやすいとか、「利用」と「発見」とは違うといった視点も出ていました。感想・振り返りの欄には、「化学だけじゃなく歴史の目線も含めて考えてみると意外なつながりが発見できた」などのコメントが多数見られました。
吉岡:成果としては、何よりも多くの生徒が主体的に取り組めたことが大きかったですね。教科横断的な視点の芽生えも感じられました。何よりも、私自身、世界史の先生やコーディネーターといっしょに授業をつくっていく過程がすごく楽しかったです。
最後に吉岡先生は、教科横断型授業のポイントとして次の3つを挙げました。
・中心となる問いが大切
・準備は極力簡単に
・「とりあえずやってみる」のノリも大事!
「とりあえずやってみる」に対しては、大賀先生が「(目的をはっきりさせたうえで)とりあえずやってみることは、とても大事」と、澤さんが「入念に準備して…というのもいいが、ノリでやるというフットワークの軽さを教員がもつことが大事」とコメント。チャットにも「教科横断は教員が楽しみながらやるのが大事そう」というコメントがあり、「とりあえずやってみる」「自分が楽しむ」という吉岡先生のスタンスは、多くの方に刺さったようです。
(取材・文 笹原風花)